Wiki小話Vol.3

行ってきました。この手の会に参加するたびに思うことではあるわけですが、今回はいつも以上にきっちり予習していくべきでしたね。なにせ講演者さんが「よくわかりませんでした」の連発でしたから、聞いているこちらはもっとよくわかりませんでした(汗 

――で終わらせては行った甲斐がないので、http://www.wikisym.org/ws2005/proceedings/にまとまっているPDFから何回かに分けて興味を覚えた部分など抜いてみましょう。

Are Wikis Usable? (PDF)

Alain Desilets、Sebastien Paquet、Norman G. Vinson各氏によるユーザビリティの研究。8〜9歳の子供たちに最低限の知識のみ与えてWikiを使わせてみたところ――Wikiに限らないことだけど――難しいのはリンク管理であることがわかった、というのが概要。まあ、それ自体別に目新しい知見ではないけれど、具体的に数字や苦手とされた機能名(リネーム、リンク記法など)、考えられる解決策を挙げてきたのが特筆すべきところなのかな。実験にはLizzyというWikiを使用。細かい解決策などは原文参照(特に後半第四節以降)。

qwikWeb - Integrating mailing list and WikiWikiWeb for group communication (PDF

今回の講演者江渡氏らの発表。当日のセッション中にはいまいち受けがよろしくなかったそうですが、あとからカナダの発表者仲間氏に聞いたところ、少なくともカナダでは日本ほどメールを使ってはおらず、みんなウェブベースの書き込みに慣れているからピンとこなかったんでないかい、てな話をされたとか。

小話の中では「それってどうよ(カナダにそんな接続環境あるの?)」という文脈で話をされていましたが、個人的にはそのカナダ人氏の方に同感なんですよね。自分自身、いまでもいくつかのMLに登録してはいますが、よほどの理由がなければいまさら新しいMLに登録しようとは思わないし、これだけ常時接続環境が充実して、RSSなどがそれなりに現実的なサービスになってきたいま、MLを構築・維持管理するより、Wikiなり掲示板なりを構築・維持管理する方がはるかに手軽で安くつくと思いますもの。日本の場合、携帯電話という端末が爆発的に普及していることもあって、まだアカウントを持ち歩くより端末を持ち歩く方が楽という側面もあるんでしょうが、世界的にはあきらかに端末よりアカウントを持ち歩く方が便利という流れになっていると思いますし、メールのログを振り分けてHTML化するツールはポータルのサービスを始めとして、すでにいくつも存在しているわけで、そこにWikiを持ち出されても――ワークフローにWikiと言われるのと同じレベルで――いまいちピンとこない。だからこそ、Javascriptなんて本質とはかけ離れた(ただし既存のメール管理システムにそのまま統合できそうな)ところでしか関心を引けなかったんでないかなあと、邪推してみたわけですが、まあ、そんな私的な分析はどうでもいいか。発表の内容は……たぶんqwik.jpに行って説明を読んだ方が早いでしょう(笑

Wikis in Teaching and Assessment - The M/Cyclopedia Project (PDF

Axel Bruns、Sal Humphreys両氏の発表。このネットワーク社会において、履歴書に大卒って書きたいんだったら協力して何かを作り上げていくためのスキルくらい身につけておいてもらわないと困るわけだけど、その力を身につける上で(Blogや)Wikiが役に立つんじゃないか――旧態依然とした大学の現状もふまえて、その長所と課題を紹介してみますという発表。プロの消費者(消費専門のエンドユーザ)という意味のpro-sumer(professional consumer)から、エンドユーザでありながら製作者でもあるというprod-user(producer+end user)へのシフトが見られるなか、学生というのはいまだにpro-sumerに留まっているけれど(また、たしかに学生の知識がまだ不十分な間はそれも効果的な勉強方法なのだけれど)、これほど情報化が進んで、ちょっと調べればそれこそどんな問題にもさまざまな見方があることがわかるのに、大学教師は一面的な物の見方を教えているだけでいいのか、コラボさせて、甘えのない、Wikipedia風中立的な物の見方をできるように導いてやる方がいいんでないか、と。あとはまあ、実際に運用してみてこんな感じになりました、こんな問題点も出てきています、てな話が続くわけですが、実際小学校の夏休みの課題とか、ウェブをペタリと張りつけていけしゃあしゃあと提出してくる子なんかもいるそうですから、教師の役割を一度見つめ直す時期に来ているのは本当なんでしょうね。Wikiがその一助になるか、またそれで学生、特にギーク連中のモチベーションを維持できるのかという問題は別として。


以下2005/11/24追記分

Wiki Communities in the Context of Work Processes (PDF

Frank Fuchs-Kittowski、Andre Koehler両氏の発表。日本人の英語とはまた違った意味で癖のある英語ですが、基本的には既存のプロセス主導のワークフロー管理ツールの自由度をさらに高め、知識集約型の仕事にも対応させられるよう、Wikiを接続するハックを考えてみました、という話。セッション中は「どうして全部Wikiで管理しないのか」というツッコミに満足な答えを返せないでいたそうですが、これは「それぞれのツールには得意分野があるんだから何でもWikiを使えばいいってもんじゃない」としか言いようがないですね。そりゃあ全部Wikiで管理しようと思えば管理できるんでしょうが、本文中でも触れられているように、自由度の高すぎるWikiにはしばしば「道案内」が必要だし、これはあくまで既存の、おそらくドイツ企業のなかではそれなりに認知されているのであろうツールのハックとしてWikiを組み込んでみた、という話なのだから、移行コストまで含めて検討しないと現実的な議論にはなりえない。また、Wiki側から見ると、この統合には膨張・発散しやすいWikiをいくつかのトピックに集約させることで管理しやすくなるメリットがあるのだそうな。スレッドのつながりを整理する機能のついたWikiをつくりました、と考えると見通しが立ちやすいかもしれない。なんにせよ、これ、やっていることの本質というか方向性はたぶんqwikWebと同じなんじゃないかな(汗

Wiki Templates - Adding Structure Support to Wikis on Demand (PDF

Anja Haake、Stephan Lukosch、Till Schümmer各氏の発表。個人的にはいまのWiki界隈で一番関心がある分野ですね。ある意味複雑になる一方のWiki文法を意識的に簡素化できるようにする試み。ネタ的にはPukiWikiなどのひな形ページ(や、各種Wikiの持つパラグラフ編集機能)と大差ないんですが、それだと読みづらいし変更とかにも弱いので、Wiki文法の枠内で(つまりSwikiのようにプログラミングなどの手間をかけずとも)作成可能なテンプレートを、しかもフォームの形で表現できるようにしたのが新しい、と。具体的な実装の方針や他との比較についてはいろいろ参考になることが書いてあると思うので原文参照してください。現物は http://www.pi6.fernuni-hagen.de/en/CURE/ から手に入るはず(私が接続テストしたときには詳細ページの方へ行けませんでしたが)。長さのわりにPDFファイル大きすぎですが、ここまでの中では一番読んでいて楽しかったです。ついでながら巡回中にhttp://d.hatena.ne.jp/yomoyomo/20051124/wikipediaというエントリも発見。ここからリンクをたどって、いろいろ読んで、最後はUncyclopediaでニヤリしませう(脱線のしすぎ)。


以下2005/11/25追記分

WikiGateway - A Library for Interoperability and Accelerated Wiki Development (PDF

Bayle Shanks氏の発表。本文中http://purl.net/bshanks/work/papers/wikigateway_wikisym05/を参照せよと書いてありますが、現在のポインタはhttp://ws2005.wikisym.org/space/Bayle+Shanks.+%22WikiGateway+-+A+Library+for+Interoperability+and+Accelerated+Wiki+Development.%22に移っているようですね。実態のない流行言葉を使うなら各種WikiをWiki2.0にするためのギミックを集約・提供し、もっとWikiを使いやすいものにしていきましょう(そして、願わくばすべてのWiki作者の方々にWiki2.0への移行をうながしましょう)、という話。小話の中では、最終的に消滅することを目的としている点でSambaと似ているという話が紹介されていました。ロードマップとしては真っ当すぎてツッコミどころもないですが、細かい話に興味がある方、プロジェクトに参加してみたい方は原文参照してください。英語としても読みやすいですし、ポインタもいろいろ載っているので参考になると思います。語るより手を動かせ的論文。ちなみにCPANにアップされているPerlWiki::GatewayはInline::Pythonを使ったラッパになっているそうなんですが、その大元となっているInlineモジュールの作者氏の改名話Perl界隈ではちょっとしたネタになっているようですね。


以下2005/11/26追記分

WikiWiki Weaving Heterogeneous Software Artifacts (PDF

Ademar Aguiar、Gabriel David両氏の発表。ドキュメント重要というのはわかっていても、従来の手法だとソースコードとドキュメントが乖離してしまったり、ソースコードの構成にドキュメントが縛られてしまったりで苦労させられたものですが、開発中のXSDoc Wikiを使うとEclipseのようなIDE環境と別環境にあるWikiドキュメントをうまく統合できるようになりますよ、という話。より具体的には、Wiki文法(と外部アプリケーションに対する通信能力)を拡張して、ソースコードなどの外部資料もWikiページの中に取り込んだりリンクしたりできるようにするつもりです、と。ただ、http://paginas.fe.up.pt/~aaguiar/xsdoc/からhttp://xsdoc.sourceforge.net/へ行ってみても中身がないのはちょっと残念。むしろすでに実装されているhttp://eclipsewiki.sourceforge.net/などの使い勝手の方に興味がわくんですが、どうなんだろ。ただ、いずれにしてもここでわざわざ統一文法があるわけでもないWikiを持ち出す必然性があるのかはちょっぴり疑問。こういう内容ならもっとローレベルに、IDE側にD&Dしてオブジェクトリンクを保持させるようなギミックを組んだ方が便利だよなあ(もちろんそのときのテキスト表現としてWiki風の文法を使うのは止めないにせよ)。

SmallWiki -- A Meta-Described Collaborative Content Management System (PDF

Stephane Ducasse、Lukas Renggli、Roel Wuyts各氏の発表。SmalltalkSeasideで徹頭徹尾オブジェクトなWikiをつくってみましたという話。Wikiテキストをそのまま正規表現でごりごりパースするより、オブジェクトツリーを組んでビジターを回した方がメンテも応用も簡単でよろしいとか、オブジェクトツリー全部メモリにぶっこんで必要なときにスナップショットを取るようにすれば速度も出るしバージョニングも楽だとか、はてな周りの記事などでときどき見かける内容だなあと思いつつ、どうも環境依存に思える内容が多くて自分のなかでは消化不良。たぶん(それなりに経験を積んだ)Smalltalkerにとっては当たり前のことしか書かれていないんじゃないかなあとは思うんですが。


あとふたつ、実践してみましたな報告があるわけですが、さすがにもういいや。おなかいっぱい。興味を覚えた部分を抜き出すつもりでいたのに結局愚にもつかないコメントを書くだけになってしまいましたが、勉強にはなりました。WikiSymつながりではhttp://usemod.com/cgi-bin/mb.pl?WikiSpamWorkshopも一読の価値ありですね。あとは来月発売のSoftware Design誌にまとめ記事が載るはずなのでそれを待ちませう、と。

http://wikibana.socoda.net/wiki.cgi?Wiki%be%ae%cf%c3%2fVol%2e3#i1