経費じゃないと思わせるのも技のうち

気持ちはわかるんだけど、なんだかなあ、とも思ったり。

勉強するのに必要な PC やら書籍やらソフトウェアやらも、仕事を支えるための、言わば仕事道具だから、自腹じゃないですか。

手を動かす仕事なんだから手だって仕事道具。肩コリだって仕事道具を使った上で消耗してしまった結果。「消耗品」と考えれば、自腹であるのも普通。

プログラマにとっての書籍は、大工にとっての道具箱みてぇなもんだから。

腕一本で喰ってこうとする職人気質の有無を感じるなぁ。

職人というにはおこがましいながら、自営業者の目から見ると、仕事道具ってのは「経費で買うのが当たり前」です。というか、経費で買わないと各方面から怒られるんです。だって、仕事で使うんでしょ? 本当に仕事にかかった費用を計上しないだなんて、裏で何か人には言えないことをしているんじゃないかと勘ぐられたって仕方ないんじゃない?

会社員として、給料という形でお金をもらっているときには見えづらいことですが、発注元の企業が発注先の企業の社員に自己研鑽費という名目でお金を出してくれることは(まず)ありません。もちろんふつうはお互いあうんの呼吸で内部留保分を上乗せして請求したりされたりしますが、基本的には案件ひとつの実費(+利益分)しか払ってくれないものです。

企業と(個人事業主たる)職人の場合も同じ。請求書に上乗せすれば正当な経費として払ってもらえるものはあっても、基本的には案件ひとつの実費+利益しか払ってもらえない。そして、自己研鑽費をその実費として認めてもらえる可能性は限りなく低い。

でも、会社員の給料って、そうじゃないですわな。作業そのものに対する報酬だけじゃない。今後も残ってもらうための引き留め費だったり、今後もっと重要なポジションについてもらうための勉強料、期待料、あるいは公器として個人の生活を保障するための経費とかまで含めた給料です。

空気を読めない人はその辺わからず給料分を全部遊びに使ったりしてしまうけど、基本的に、会社員が仕事で使うものを買うときは「自腹」にゃなりえない、少なくとも給料から出費しているものについては会社の経費で買わせてもらっているんだってことは意識しておいた方がいい。その使い方を会社が決めるか個人に決めさせるかは会社のありよう次第――各人に給与の形で支払う分を減らして会社全体の経費で必要なものを買うようにするか、会社全体としては最低限の経費しか使わず、その分を各人に分配して個人に買わせるか、ということでしかない。

もちろん、給料の意味をきちんと勘案したうえで、自分の正当な利益分はこれだけで、その利益分から出費しているからこの資料は「自腹」「自分の経費として買っている」ということはできるけど、昨今給与として織り込み済みのボーナスじゃなく、純粋に利益が出過ぎたから社員に配当します、なんてものがどれほどあるのかな。

それは別としても、サービス残業とかなんとか含めて、仕事に使うものを正当な経費として認めず個人に出費させるだなんて、まともな会社のすることじゃない。税金対策として企業から個人にお金を渡して……とかいうことはもちろんありますが、「自腹」がかっこいいとか、職人だから「自腹」なんてことはないんです。たとえ実質的には紙一重の差しかないとしても。

逆説的な言い方をすると、そういうコスト意識なしに買っているものは、仕事に使うものなんじゃなくって、単なる趣味・道楽の道具でしかない。そりゃあ道楽に使う金まで経費に計上しちゃいけませんやね。

釈迦に説法とは思いつつ、自腹ってのは、そういうあやうさも含んでるってことです。